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会計は大きく管理会計と財務会計の2種類に分けられます。
このうち管理会計は社内向けで、主に経営判断の材料に使うことを目的とした会計です。
今回は管理会計の概要や必要性、財務会計との違いなどを詳しく解説します。
管理会計とは?その役割と企業経営における重要性
管理会計とは経営判断や企業のマネジメントを目的とした社内向けの会計です。
自社の状況や経営課題を会計的な視点から把握し、数値に基づいた適切な判断を行うために必要とされます。
財務会計と違い実施の有無や方法に特別な定めはないため、企業の状況に応じて柔軟な対応が可能です。
主な管理会計の業務
前章で紹介したように管理会計には特別なルールが定められていないため、業務内容も企業によって違いがあります。
今回は管理会計に該当する業務内容のうち、多くの企業に共通してみられる代表的な業務を4つ紹介します。
経営分析:管理会計を活用した経営判断の手法
経営分析とは自社の経営状況を把握するために行う分析全般です。
経営分析における主な指標として以下の5つが挙げられます。
収益性分析 |
売上高総利益率、売上高営業利益率、総資産利益率、自己資本利益率など |
安全性分析 |
流動比率、当座比率、自己資本比率など |
生産性分析 |
労働生産性、資本生産性、付加価値率など |
成長性分析 |
売上成長率、経常利益成長率、総資本成長率など |
効率性分析 |
総資産回転率、売上債権回転期間など |
経理が作成する財務諸表や各種調査報告などの資料を用いるのが一般的です。
経営分析は自社の状況や課題を把握するのに役立つため、多くの企業で実施されている管理会計の基本業務の一つです。
また、経営分析によって把握した情報は管理会計に関するその他の業務にも活かされます。
予実管理:予算と実績の差異を分析する方法
予実管理とは経営目標達成のために設定した予算と実績を比較・分析、評価することです。
予実管理の主な目的として以下の3つが挙げられます。
- 予算の到達度の把握
- 予算に到達できなかった原因の分析、課題の把握
- 次期目標の設定および予算の調整
予実管理のプロセスは大きく3つの工程に分けられます。
- 過去の実績や想定される取引をもとにした予算の設定
- 実績の明確化および予算・実績の比較、予算と実績がズレている理由の分析
- 予算に近づけるための対策の実施、予算調整
効果的な予実管理を行うためには、実績の変化を可能な限りスピーディーに把握できるのが理想です。
予実管理に力を入れるのであれば、会計ソフトへの迅速な入力や月次決算の実施が求められるでしょう。
資金繰り管理:企業のキャッシュフローを安定させる重要性
資金繰り管理は収入や支出といったお金の動きを管理することです。
運転資金の不足防止や、支払に必要な現預金を確保する目的で行います。
資金繰り管理では現預金の動きを見える化するために資金繰り表を作るのが一般的です。
資金繰り表の主な項目として以下の例が挙げられます。
【収入関連】
- 売掛金の入金日・金額
- 受取手形の決済日・金額
- 営業活動以外による入金の発生時期・金額
【支出関連】
- 買掛金の支払い日・金額
- 各種経費の支払い日・金額
- 支払手形の決済日・金額
- 給料日・金額
- 社会保険料や税金の納付日・金額
- 営業活動以外での支出の発生日・金額
どこまで管理するかは企業によりますが、高額の取引や特殊な取引など、資金繰りに大きな影響を与えるものは明確化するべきでしょう。
原価管理:製造業におけるコスト管理の基本
原価管理とは製品やサービスの製造・提供のためにかかるコストを管理することです。
「コストマネジメント」とも呼ばれます。
原価管理を行う主な目的として以下の3つが挙げられます。
- 製品やサービスの提供により利益を得るための適切な価格設定をするため
- 予算や利益目標を設定する上での基準を作るため
- 特にコストがかかっている部分や損失リスクの把握および回避のため
原価計算の大まかな流れは以下の通りです。
- 標準原価(目標とするべき原価)の見積もりおよび設定
- 実際に発生した原価の計算
- 最初に設定した標準原価と実際に発生した原価の差異を分析
- 製品やサービスの製造・提供における課題の把握、標準原価の調整、原価率の改善に向けた施策立案
原価管理も経営判断や企業のマネジメントをするために欠かせない業務となります。
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財務会計とは?基本概念と企業経営への影響
財務会計とは外部の利害関係者に対して企業の財政状況や経営成績を開示することを目的とした会計です。
財務会計で制作する主な資料として「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」「損益計算書」の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
貸借対照表:企業の財政状態を把握するための財務諸表
貸借対照表とは、企業のある時点における財政状態を示す書類です。
貸借対照表は以下3つの要素から構成されています。
- 資産の部:現預金、売掛金、固定資産など企業が保有する資産・財産
- 負債の部:買掛金や借入金など、将来的に返済や支払いが必要である負債(他人資本)
- 純資産の部:資本金や繰越利益剰余金など、返済の必要がない自己資本
資産は向かって左側、負債と純資産は向かって右側に表示されます。
キャッシュフロー計算書:企業の現金の流れを理解するための重要書類
キャッシュフロー計算書とは収入や支出といったキャッシュの出入りを示す書類です。
キャッシュの変動要因によって以下の3つに区分して表示されます。
区分 |
特徴 |
該当する項目の例 |
営業活動によるキャッシュフロー |
本業によって発生したキャッシュの変動 |
現金による売上取引 売掛金の回収 買掛金の支払 給与等の支払い 経費の支払い |
投資活動によるキャッシュフロー |
投資活動によって発生したキャッシュの変動 |
有価証券の売買 固定資産の購入・除却 貸付金の実行 |
財務活動によるキャッシュフロー |
資金調達や融資の返済など財務活動によって発生したキャッシュの変動 |
融資の入金 社債発行 株式発行 借入金の返済 社債償還 |
損益計算書:企業の収益性を示す財務諸表の解説
損益計算書とは、ある一定期間における収益と費用をまとめた書類です。
企業の経営成績を示します。
損益計算書では企業の収益や費用の細かな内訳のほか、以下5種類の利益の把握が可能です。
- 売上総利益:売上高から売上原価を引いた利益
- 営業利益:本業による利益。売上総利益-販売費及び一般管理費
- 経常利益:本業以外の活動を含めた利益。営業利益+営業外収益-営業外費用
- 税引前当期純利益:法人税等を引く前の利益。経常利益+特別利益-特別損失
- 当期純利益:法人税等を差し引いた後に残る最終的な利益
財務会計と管理会計の違い
1.財務会計とは会計基準に基づいた会計処理
財務会計と管理会計は、それぞれ違う目的をもっています。
財務会計は、外部の関係者に対して企業の財政状況や経営業績を開示することを目的としています。
管理会計は、外部の関係者ではなく企業内部のために、ある一定の組織単位、部門等で損益を管理することで、経営者が経営判断を行うことを目的としています。
具体的に作成する資料として、財務会計は「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」などになります。
管理会計は、会社独自の資料となりますが、一般的には「部門別損益計算書」などがそれに当たります。
管理会計を理解する上で、財務会計と管理会計の目的が違うことを再度理解しておきましょう。
2.管理会計は会社独自のルールで作成する指標
管理会計の目的は、経営者が経営判断するためと説明しました。
企業の経営者それぞれで、その経営判断するための指標は様々です。
また、管理会計は財務会計のように全ての企業が同じルールである必要はありません。
よって管理会計のルールは、企業毎に独自のルールが制定されています。
一般的に共通した処理としては、企業内の部門毎に損益を管理する仕組みを導入し、経理部や人事部等の販売管理費を各事業部に配賦する仕組みです。
これは大半の企業が同じ仕組みとなっていますが、これに時間軸や商品別など様々な指標を作成して、経営判断に活かしています。
例えば、ある企業では、収益に対し総労働時間で割ることで、一人1時間あたりいくらの収益を生んでいるかを算出し、経営判断の指標としています。
3.管理会計と予算の関係
管理会計は、予算管理と密接な関係になります。
予算は通常、3ヵ年などの中期計画を予算として決定し、それを外部の利害関係者にも開示します。
この策定した予算の基礎となる数値は、将来の管理会計の数値を部門別に集計した結果が、予算数値に繋がっています。
これにより、企業では予算数値と実績数値が乖離した場合、管理会計で管理している単位や指標により乖離の原因分析を行うことができます。
予算は会社を運営する上で、経営者、従業員ともに共通の目標となります。
その共通目標を達成するために、年度毎ではなく、四半期、月単位といった短いスパンでリアルタイムに数値を部門別等で把握することは非常に重要となります。
よって、管理会計と予算管理は切っても切れない関係にあります。
管理会計のメリットとは
1.部門の単位と集計範囲
管理会計における集計する単位は必ずしも部門だけとは限りません。
例えば、部門以外の単位として、支社や支店、営業所といった単位で管理する企業もあります。また小売業であれば、1店舗が単位になりますし、関東や関西といったエリアで管理している場合もあります。
ここで、小売店のように、1店舗の1層上でエリアを管理したりなど、1店舗を基準として様々な集計単位を設定することで、地域別の特性などを把握することができます。
このように、管理会計を有効活用することにより、様々な分析や検討をすることが可能となります。
2.販売管理費や人件費の配賦
管理会計を行う上で、決めなければならないのが、配賦基準です。
これは、販売管理費に含まれる人件費や消耗品、事務所家賃などの経費を一定の基準を設けて各部門に配賦します。
配賦を行うことにより、粗利だけでなく販売管理費も含めた部門別の損益を把握することができます。
一般的には、売上高基準や従業員数などの基準で配賦しますが、事務所賃借料などは該当部門の占有面積などで按分する場合もあります。
この配賦基準は年度ごとに見直す必要はあるものの、大きく毎年変動することはありません。毎年大きく基準を変更させてしまうと前年対比などの比較が困難になるためです。
3.予算と実績との差額検証(予実管理)
前述で説明した通り、管理会計を行うことで予実管理も容易に行うことができます。
会社全体で予算乖離の原因を特定しようとすると膨大な取引データから分析する必要がありますが、損益単位を部門等にすることで、どの部門で予算乖離が発生しているかを見える化することができます。
原因の部門が特定できれば、深掘りして個別案件への分析も効率的に行うことができます。
ただし、細かい単位にしすぎると経理業務が煩雑となり、業務量が多くなるため単純に細かい方が良いというわけではありません。
予算管理と管理会計の目的を意識して集計単位を決定するようにしましょう。
経理・財務の求人
管理会計のデメリット・課題とは
管理会計のデメリットおよび課題は、管理会計の導入によって経理担当者の負担が増大することです。
単純に作業量や業務範囲が増えるのはもちろん、以下のような課題も存在します。
- 財務会計のように決まったルールがないため、進め方や仕組み作りも行う必要がある
- 財務会計とは違った側面からの管理や資料作成が必要になる
- より高度な会計知識やセンスが求められる
管理会計のデメリットを解消するには
管理会計のデメリットである「経理担当者の負担が増大する」を解消する方法として以下の例が挙げられます。
- 経理担当者を増やす
- 財務会計と管理会計の担当者を分ける
- 管理会計について事前に研修を行い、やるべきことを明確にする
- 管理会計の業務を行うべきタイミングと経理の繁忙期(年次業務の発生時)が被らないように調整する
- 業務効率化につながるシステムやツールを導入する
管理会計の必要性について現場に理解してもらうための丁寧な説明や、負担を減らすための環境整備が必須です。
管理会計の必要性
1.部署単位での売上、コスト意識の向上
管理会計の目的は、経営者の経営判断指標ですが、一方で副産効果として、部門単位の業績を見える化する効果があります。
具体的には、自部門の収支を把握することで、従業員個人が自部門の業績を確認することができ、売上やコスト削減の意識付けになります。
一部の企業では、従業員個人の評価プラス、部門別の業績を併せて人事考課の基準としている企業もあります。
2.不採算部門等の見える化
管理会計の副産効果として、不採算部門の見える化があります。
これは、先ほどの従業員の意識向上とも繋がりますが、経営者目線からも不採算部門を見える化することが非常に重要です。
不採算部門を見える化することで、該当部門の従業員は収益を向上させようと意識します。
また、経営者は、不採算部門を継続的に把握することで、不採算部門の事業撤退や、大きな事業転換などの判断をしなければなりません。
管理会計により、常に部門別の数値を見える化することは、普段からの意識づけにもなるため、非常にメリットが高いです。
まとめ
管理会計は経営判断や企業のマネジメントを目的に行う社内向けの会計です。
管理会計の導入によって、適切な予実管理やコスト意識の向上、不採算部門等の見える化などのさまざまな効果が期待できます。
一方、経理担当者の負担が増えてしまう点がデメリットであり課題です。
管理会計のメリットだけでなくデメリットも十分に理解した上で、適切な管理会計を行うための環境整備をしましょう。
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