税理士業界トピックス
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2012.07.06
対策は万全のはずが・・・
まだ多い職場でのセクハラ会社に過失なら、損金経理OK
厚生労働省はこのほど、「平成23年度男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に関する相談、紛争解決の援助及び是正指導の状況」を公表しました。
厚生労働省はこのほど、「平成23年度男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に関する相談、紛争解決の援助及び是正指導の状況」を公表しました。それによると、男女雇用機会均等法に関する相談は2万3303件で、労働者からが1万2724件と全体の54.6%を占めています。
相談者別相談内容は、「セクシュアルハラスメント」が1万2228件で全体の52.5%を占め、その内訳は女性7517件、男性544件、事業主1963件、その他2204件となっています。セクハラ相談は毎年最も多く、平成21年度で8075件(62%)、同22年度7912件(63%)、同23年8061(63.4%)となっています。
男女雇用均等法では、職場における女性に対するセクハラ防止対策について、会社の規模などに関わらず、「必要な措置を講じること」が事業主に義務づけています。必要な措置とは、「就業規則等で明確にセクハラを禁止すること」などで、具体的には9項目。以下がその内容になります。 (1)職場におけるセクハラの内容・セクハラがあってはならない旨の方針を明確にし、社員全体に周知・啓発する (2)セクハラ行為者に対し、厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定 (3)相談窓口を予め定める (4)担当者が適切に対応できるようにする、広く相談に対応する (5)事実関係を迅速かつ正確に確認 (6)事実確認ができた場合は行為者および被害者に対する措置を適正に対処する (7)再発防止に向けた措置を講ずる (8)相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知する (9)相談したこと、事実関係の確認に協力したことなどを理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、周知する
そもそも、男女雇用均等法上のセクハラは、「職場における性的な言動に起因する問題を防止する」旨を規定していますが、この「性的な言動」として性的な冗談、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと、ヌードポスターの配布・掲示、強制わいせつ、強姦などを挙げています。これは、事業主、上司、同僚に限らず、取引先や顧客などもセクハラの行為者になりえることを明示しており、さらには男性から女性だけでなく、女性から女性、男性から男性に対しての行為も含まれます。
均等法での職場の定義ですが、社員が業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外でも、取引先の事務所、取引先と打ち合わせをするための飲食店(接待の席も含む)、顧客の自宅、取材先、出張先、業務で使用する車中なども含んでいます。ちなみに、夏の暑気払いなど勤務時間外の宴会であっても、職場の延長と考えられるものは該当します。また、対象者は正規の社員だけでなく、パート、契約社員、派遣社員に対しても規定が適用されます。
セクハラ被害では、被害者が精神的に参ってしまうケースも少なくありません。現実的にセクハラ被害で精神障害などを発病した場合、労災として認定されるケースもあります。労災となると、会社としては当然、均等法上における管理の問題だけでなく、「企業の責任」として、さまざまな補償、損害賠償責任を負う可能性もあります。
たとえば、セクハラを受けた社員が、それが原因で病気になり、通院や入院することになったら、会社が治療費や入院費、通院のためのタクシー代を負担、中には見舞金や損害賠償金を支払うこともあります。こうした支出の税務の取り扱いについて国税当局は、会社の過失により、損害賠償としての意味を持つ支出であれば、業務上必要な支出として損金処理することも認めないわけにはいかないとの見方をしています。 一般的に税務上、会社の役員や社員の行為により、他人に損害を与えて、損害賠償金を支出した場合は、その損害賠償金の対象となった行為が会社の業務に関連するもので、故意または重過失に基づかないものである場合は、その支出した損害賠償金の額は給与以外の損金の額に算入します。また、会社の業務に関連するものであるが、故意または重過失に基づくもの、会社の業務に関連しないものである場合は、その支出した損害賠償金に相当する金額を、損害賠償の原因となった役員または使用人に対する債権として取り扱います。ただし、その役員または使用人の支払能力からみて求償できない事情がある場合に限り、その回収できない部分については、貸倒れとして損金経理が認められます。貸倒れなどとして損金経理した金額は、その役員らに対する給与扱いとなります。ちなみに消費税については、心身に加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金、見舞金などは、対価として支払われるものではないため、消費税の課税対象とはならず、不課税仕入れとして取り扱います。
一方で被害者として、事故による負傷について受ける治療費や慰謝料、それに負傷して働けないことによる収益の補償をする損害賠償金を受け取ったものについては非課税。また、見舞金についても社会通念上、相当と認められる金額のものについては非課税扱いとされています。
Profile 宮口 貴志
税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。
公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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