税理士業界トピックス

税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します

2012.07.18

消費税増税で中小企業の倒産増加!?
前回改正では税収全体が悪化

野田佳彦首相の消費税増税の並々ならぬ思い入れから、消費税率を平成26年4月に8%、 27年10月に10%に引き上げる可能性が非常に強くなってきましたが、 中小企業にとって増税はかなりの試練になりそうです。

消費税の増税は、何がなんでも実施するものではなく、この点、マスコミ各社は詳細に報道していないことが多いです。 というのも、民主、自民、公明の3党合意により経済成長率「名目3%・実質2%」を達成しなければ、 消費税増税そのものを見直し、そのときの政権にお任せすることになっているからです。

しかし、数字を示せば安心なのかというと、必ずしもそうは言えません。これまでの景気動向を見ても、 大企業の回復があってから中小企業に影響してくるため、中小企業が回復する前に増税となると、 景気回復の恩恵を受けられずに増税というダブルパンチとなる可能性があります。

■株価を引下げ、公債発行額も大幅増

もし、ダブルパンチとなれば財政再建は夢のまた夢。一般会計税収の推移をみていくと興味深い現実が見えてきます。 たとえば、平成9年に消費税率を3%から5%へ2%引き上げ、消費税収は4兆円ほど上乗せされましたが、 一般会計税収はやや上向きになるものの、すぐに税収は大きく落ち込み、それ以降は同年の水準を回復した年がないのです。 つまり、消費税増税は、税収を増やすという目的に失敗したわけです。

また、この時期の日経平均株価の推測を見てみると、ほぼ一般会計税収と同じ動きをしています。 因果関係まではこのデータからでは実証できませんが、企業業績が上がれば、株価も上がり、 税収も増えるという相関関係については理解できると思います。 同9年は、歳出も増大しており、税収の落ち込みと歳出の増大によって公債発行額は大きく増えました。 つまり財政赤字が増大して、財政再建からは遠ざかってしまったのです。 このような税収の落ち込みや歳出の増大が原因で、景気後退を加速させました。

■免税業者の試練は2倍

消費税の怖いのはこれだけではありません。益税の問題があります。 消費税を納める納税義務者である事業者には、免税事業者という消費税を納税しなくても良い事業者がいます。 基準期間(基本的には前々事業年度)の課税標準高(売上高)が1千万円以下の小規模事業者である場合には免税事業者になります。 つまり、消費者から消費税を預かっていたとしてもその消費税を納税する義務がないのです。

課税事業者であれば、売上高に含まれる消費税から仕入れなどにかかった費用に含まれる消費税を控除した金額を国に納付します。 しかし免税事業者は納税義務がないので、自分が仕入れなどに支払った消費税よりも預かった消費税が多ければ 売上とは違う別の収入が出ることになります。これがいわゆる「益税」問題の一つとされているものです。

小規模事業者が有利なようにも思えますが、固定資産の購入や、改装をするなどの多額の支出がある場合には 自分が支払った消費税の方が多くなり、損をすることもあります。

また、課税標準額が1千万円以下の事業者の場合、預かる消費税は多くても50万円程度であり、 そこから仕入れの際に支払った消費税を控除すると数十万円が納付すべき消費税となります。 この先消費税が増税されれば、この益税部分が増えます。 10%になれば2倍になるわけです。この金額は、小規模企業にとって負担は大きいです。

このほか、消費税は、赤字会社でも関係なく納税責任があります。 法人税等と違い、顧客から一時的に税金を預かっていると考えるからです。 赤字でも納めなくてはいけないのが消費税。中小企業経営を直撃する可能性が高いと言えます。

Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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