税理士業界トピックス
税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します
2012.08.20
消費税率アップで中小企業は困惑
「総額表示」義務付けにどう対処!?
紆余曲折ありましたが8月10日、消費税改正法案が参議院本会議で可決されました。
これで消費税率は2014年4月に5%から8%(地方消費税税1.7%を含む)、2015年10月から税率10%(地方消費税2.2%を含む)に引き上げられます。今回の増税法案の特徴は、税率引き上げの直接の前提とはしないものの、「名目経済成長率3%、実質2%程度を目指す」ことが政府の努力目標として盛り込まれた点です。
ところで、今回の消費税率の引き上げ議論の中で気になったことがありました。それは、従来消費税1%アップにつき2兆円の税収が確保できると言われていたのが、今回は2.5兆円で議論が進められていたのです。現在、5%の消費税で税収は約10兆円なので1%で2兆円という計算になります。ところが、今回の議論では地方の取り分を含めて数字が示され、5千億円上積みされていました。
さらにびっくりだったのが、最終的に2.5兆円が2.7兆円になっているではありませんか。5%のアップで13.5兆円の税収があるとしており、1%で見ると2.7兆円というのです。これについて政府は、実質経済成長率1.1%を加味したためと説明しています。ですが突然数字が変わったので、意図的に数字が作られたようで不快感を覚えました。
■還付金のごまかしを厳しくチェック
ところで、消費税率の引き上げは、税収増はもちろんのこと、消費税調査の精度・件数アップも予想されています。
消費税税調査は現状、国税庁の「平成22事務年度(平成22年7月から同23年6月までの間) 法人税等の調査事績の概要」(平成23年11月発表)http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2011/hojin_chosa/01.htm#a01によれば、調査対象法人の55.5%で消費税の申告ミスが発覚。非違による追徴税額はなんと557億円にも及んでいます。また、消費税の還付法人にも税務調査が行われ、ちなみに平成22事務年度(平成21年7月から同22年6月までの間)は8500件の還付申告法人に対して税務調査が実施され、75億円の消費税額を追徴されました。このうち約800件が不正に還付金額の水増しなどを行っており、約13億円が追徴されています。
■「ストップ総額表示違反」目的に事例集も
中小企業の現場で大きく影響するのが価格表示です。なかでも、消費税率引き上げ時における「総額表示」義務。総額表示は、平成16年4月から義務付けられました。この総額表示は、どのような表示媒体であるかを問わず“義務”です。たとえば、値札、商品陳列棚、店内表示、商品カタログ等への価格表示、商品のパッケージなどへの印字、新聞折込広告、DM、新聞、雑誌、ホームページ、電子メール、ポスターを利用した広告なども対象です。表示方法については、税込みの総額があれば本体価格や税額表示を明記しても構いません。たとえば、①10,500円、②10,500円(税込)、③10,500円(税抜価格10,000円)、④10,500円(うち税500円)、⑤10,500円(税抜価格10,000円、税500円)などです。
今回の消費増税に絡み、多くの中小企業団体が総額表示についての要望を政府に提出しています。政府はあくまでも現行の総額表示義務付けを維持していく方針のようですが、値札やレジシステムの変更などのコスト・事務負担を軽減する観点から弾力的な運用を考えています。
たとえば、書籍なら「本体価格●△円+税」などと記述する一方で、書籍に挟んでいる売上スリップには、総額表示するといった具合です。つまり、消費者が最終的な支払総額が分かるようにしていれば認めましょうという考えです。
政府の消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する検討本部は本年5月31日、「転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況(中間整理)」をまとめ、必要とされる対策についてまとめました。また、今後は総額表示義務違反とならない事例をまとめた事例集やガイドラインなどを作成し予定です。顧問先支援のため、こうした情報提供は早めにしたいところです。
Profile 宮口 貴志
税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。
公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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