税理士業界トピックス

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2013.08.22

役員退職金 功績倍率3倍は本当に安全か?

ビックカメラの寺崎悦男社長が退任し、木村一義会長が9月1日付で社長を兼務することが発表されるなど、経営トップの入れ替えが話題を呼んでいます。話題といえば、「週刊モーニング」の人気マンガ「社長 島耕作」(著者:弘兼憲史)の主人公・島耕作もこのほど社長を退任し、会長に就任しました。漫画のことですが、経営トップの引き際というのは難しいものです。 役員の退職に絡み問題になるのが退職金額の判断です。それが創業社長となると一層判断に迷います。不当に高額ならば過大な役員給与として損金不算入になります(法人税法第34条)。

■「2.0~3.0が妥当」との根拠

不相当ではない金額の決め方は、法人税法施行令第70条の2において「その法人に従事した期間」「類似(業種、規模など)法人の役員退職給与の支給状況」などを総合勘案するとされていますが、これも意外に難しいものです。 適正額の求め方としては、「1年当たり平均額法」と「功績倍率法」がありますが、一般的には功績倍率法を用いる場合が多いのではないでしょうか。ただ、その功績倍率も明確な基準があるわけではないので、類似する法人の功績倍率の平均値から算出ることになります。税理士の世界では概ね「2・0~3・0程度が妥当」といわれています。 功績倍率が「2・0~3・0程度」となる論拠は、昭和56年11月18日の東京高裁判決で示された「社長3・0、専務2・4、常務2・2、平取締役1・8、監査役1・6」という数字です。 このほか、裁判で合理的とされた社長の功績倍率には、昭和60年9月17日最高裁の「3・0」、平成元年1月23日東京高裁の「2・2」などがあります。

■個別の諸事情を説明できれば7・5倍も

しかし、このパターンから外れた途端に否認されるかといえばそうではありません。昭和52年9月26日の東京高裁では「7・5」という高倍率も認められました。この場合類似法人の平均功績倍率は「2・7」ですが、退職事情や専務取締役への退職金支払事情などから「7・5」が認められました。 その一方で、平成19年11月15日の国税不服審判所の裁決では、税務署から「功績倍率が高すぎる」と更正処分を受けた納税者が、「裁判事例では3・3~3・6が定着しているので、その数値が適当」と訴えましたが、「裁判例や裁決例と異なるというだけで不相当に低率とはいえない」と否認されました。この際に審判所が示した功績倍率は「1・9」でした。 また、今年3月22日の東京地裁判決では、功績倍率の判断として平均功績倍率法をまず用い、最高功績倍率を用いるべき場合は、同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分でない場合や、その抽出件数が僅少であり、かつ、最高功績倍率を示す同業類似法人が極めて類似している場合に限るとされました。この裁判での平均功績倍率は1.18倍でした。 これら判例から分かることは、この功績倍率なら大丈夫という明確な基準はないということです。仮定になりますが、税務調査の場面では3倍程度で妥協点が見つかる可能性もありますが、法令厳守の司法まで行ってしまうと1.18倍という判断が下される可能性もあります。 いずれにせよ、功績倍率を決める場合、十分な論拠をあらかじめ用意しておく必要がありますが、当局との“妥協点”はどこにするかとう判断も重要になりそうです。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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