税理士業界トピックス

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2014.10.28

富裕層の海外資産移転にペナルティ!?

この10年の間に、海外に永住する日本人富裕層が増えてきました。

租税条約上、株式等のキャピタルゲインについては、株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされています。
これを利用し、巨額の含み益を有する株式を保有したまま、シンガポールや香港といったキャピタルゲイン非課税国に出国し、その後売却することにより、税負担を回避しているようです。

日本人の海外永住者数の推移を見てみましょう。
シンガポールは、平成8年には813人だったものが同18年1302人と1千人を超え、同25年には1852人になりました。
わずか7年の間に2倍以上の日本人が出国しているのです。
他国を見ても、香港では同8年に1017人だったものが、同25年には2151人と約2倍、スイスも増え同8年に2375人だったが、同25年には4719人とこちらも2倍の増加となっています。さらに、ニュージーランドにおいては、同8年に2517人だったものが同25年には4倍近い8444人にも上っています。(各年10月1日時点において永住権を認められている邦人等の数)

先進諸国においては、こうした税負担の回避に対応するため、出国時に未実現のキャピタルゲインに対して特例的に課税する措置等を講じています。
そこで日本においても現在、諸外国を参考に課税措置を検討しています。
出国に係る課税の特例を導入している国には、オーストラリア、オーストリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、 イタリア、ニュージーランド、ノルウェー、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国、米国などがあります。
たとえば、アメリカでは、1967年から国籍離脱者・永住権放棄者に対して、国籍離脱・永住権放棄後10年間、米国源泉所得に対し、引き続き国籍・永住権を保持していた場合と同様の課税を行うという特例制度を有していましたが、2008年より資産一般を対象として、国籍離脱・永住権放棄の時点で、未実現のキャピタルゲインに対し譲渡所得課税を行うという現行制度に変更しました。
イギリスは、国外に移住し一時的に非居住者となった後、5年以内に再び帰国した者を対象に、出国中に生じたキャピタルゲインについて、帰国時に発生したものとみなして、帰国時に譲渡所得課税を行っています。
なお、出国に係る課税の特例を導入している国では、未実現のキャピタルゲインに課税する場合、納税資金が十分でない可能性があることから、 延納制度や納税猶予制度も設けられています。一部の国においては、出国後一定期間内に株式等を売却せずに帰国した場合には、これら特例に係る課税を免除する例もあるようです。

Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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