税理士業界トピックス
税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します
2015.07.16
スネかじり贈与の落とし穴 ブライダル資金、子育て援助etc・・・
相続増税となり、世の中贈与ブームとでも言いましょうか、国もなにかと贈与を後押ししています。
会計人の間でも、クライアントから贈与の相談が多くなってきたと聞きますが、その中でも「結婚・子育て資金贈与の非課税制度」は結構注目度が高いようです。 「なんで・・・」と思うのですが、やはり話題性でしょう、一般納税者ウケしています。枠組みだけ作ってあとは金融機関に任せておけば魅力的に宣伝してくれる。国も上手くやったものです。
この結婚・子育て資金贈与の非課税制度は、はっきり言って高齢者が貯めたお金を動かして、経済を活性化させようとの趣旨でつくられたもの。日本の人口構成が逆三角形になり、若者より60歳以上の高齢者が増えてきているのですから、せめてここにある余裕資金だけでも、少人数の若者向けに渡していこうというのが国の狙いです。 高齢者も十分ソレを承知で、孫に贈与しようというのだから悪いことではありません。ビジネス誌の特集では、「教育資金贈与とセットで2千500万円贈与できます」とも書いていました。 住宅資金贈与の非課税制度に関しても、平成27年から控除枠が拡大され、住宅用家屋の取得等の契約の締結期間が同年12月末までなら1500万円まで非課税となっています。同28年以降については、段階的に1200万円、1千万、800万円と下がってくるものの、消費税10%にアップする前後の平成28年10月~同29年9月には、なんと3千万円が非課税というのですから、国も大盤振る舞いです。 でも、ここまでの大金を贈与できるのは、庶民というより一部のお金持ちだけです。
話を元に戻しますが、この結婚・子育て資金贈与の非課税制度、中身を見ていくとなんか変ですよね。会計人の方ならすでにお気づきでだと思いますが、そもそも、父母や祖父母が結婚資金や出産費用を負担することはよくあることですが、贈与税の課税対象となりません。まっ、「通常必要とされる範囲」という条件はつきますが、新居の家具什器の購入や生活費とする場合も課税されません。 その「通常」や「必要」の範囲も、贈与を受ける人の必要性と贈与をする人の資力によります。たとえば、嫁入り道具が高額でも、名古屋なら普通かもしれません。また、祖父母のお金で子や孫がブランド服を着て高級レストランで食事をしたとしても、それはその家庭の生活レベルということです。そうした一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる贈与をいいます。 ただ、結婚資金など、もらったお金を預貯金でストックしたり、株式や家屋など名義の付される資産を取得した場合は税金がかかってきます。 それにしても、今回の特例は、だいぶもったいぶって適用条件やら手続きやらを設けて納税者を煽っていますが、よく考えたものと感心します。 真の狙いを分かった上で適用する人はどれだけいるのか?ん~、考えてしまいます。
ところで、この結婚・子育て資金贈与の非課税制度ですが、印象が「教育資金贈与の特例」とダブる点もあり、制度設計が同じと思っている人がいますが、一点違う点があるので注意が必要です。 それは贈与者が亡くなったときの課税関係。教育資金贈与の場合、たとえば、贈与者であるおじいちゃんやおばあちゃんが贈与直後に亡くなっても、残った信託財産に相続税がかかりません。 例えば生前に1500万円を一括贈与し、入学金や授業料などで300万円使ったところでおじいちゃんが亡くなっても、残りの1200万円は相続税の対象外となります。さらに、「相続開始前3年以内の贈与」に取り込まれることもありません。 ところが、結婚子育て資金贈与では、おじいちゃんやおばあちゃんら贈与者が死亡したときに、贈与したお金が残っていると、相続で取得したものとみなされて相続税がかかるのです。 これは大きな違いです。趣旨も基本的な制度設計も似たようにしているのに、なんでココだけ違うのか・・・罠にでもはめようとしている?普通に考えて、高齢な贈与者がここまで理解して孫などに贈与するとは思えません。「知らなかったのは贈与者の非相続人が悪い」と言われ、相続税がかかるのですからわりにあいません。課税当局からしたら、「そもそももらったお金なんだから、そこに税金が掛かっても仕方ないじゃない」というかもしれませんが、よ〜く考えてから適用したほうがよいですね。
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Profile 宮口 貴志
税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。
公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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