税理士業界トピックス
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2015.07.23
遺言で相続税減税 2通以上の遺言書があったら効果は?
先日、相続で揉めている方の話をお聞きしました。相続は「争続」と言われるほど、相続人間で、残された財産をめぐり揉めることが多いといいます。TVドラマの題材にもよくなりますが、揉めると家族・親族付き合いがなくなることもあるようです。お話を聞いた相続人の間でも、相続争いをきっかけに親族の付き合いがなくなったといいます。ついこの前まで、子ども同士仲良く遊んでいたのに、こんな簡単に縁が切れてしまうもんなんですね。子ども複雑な心境でしょう。相続は、他人事と思わず真剣に考えておく必要があります。
遺言控除なる新制度検討へ
さて、こうした「争族」を減らそうと、政府・与党は、「遺言控除」の創設を目指すようです。これは、有効な遺言による相続であることを条件に、一定額を相続税の基礎控除額に上乗せして控除しようというもの。早ければ2017年度税制改正に盛り込み、18年からの導入を目指すとしています。 今年1月から相続税は増税され、現在相続税は昨年よりも基礎控除額だけで2400万円も減りました。つまり、昨年なら基礎控除額は「5千万円+(1千万円×相続人の数) =6千万円」だったものが、今年1月1日以降からは「3千万円+(600万円×相続人の数) =3600万円」になったのです。基礎控除が減れば、相続税の対象になる財産額が下がるので、相続税申告者が増えます。一方、遺言控除が新設されると、控除額が増えるため、手元に残る相続財産が増え、今回の相続増税部分ぐらいは補でんするかもしれません。 遺言控除の制度設計の詳細については、まだ決まっていませんが、控除額の上限は数百万円となる見込みです。
遺言だけでは解決しない
遺言控除制度ができると、弁護士や司法書士、行政書士などの士業がビジネスとして積極的に取り組みますが、士業が絡んだからといって、相続対策は遺言を書けば丸く収まるものでもありません。被相続人の死亡後、いくつもの遺言が出てくるなんてこともあります。 たとえば、家の金庫に被相続人であるお父さんの遺言書があったとします。他にも、銀行の貸金庫、仏壇の中からそれぞれ一通づつ、合計3通の遺言書が見つかったとします。民法に沿った形で遺言を作成しても、遺言者は、いつでも、これを取消すことができます(民法1022条)。 遺言者が、遺言中に「撤回しない」旨を遺言に書いていても、後の遺言で撤回することも可能なのです。後の遺言で前の遺言を撤回すると、前の遺言は効力がなくなります。また、公正証書遺言が自筆証書遺言に優先することもありません。 つまり、遺言書にとって重要なのは、どちらが新しい日付になっているかなのです。 よくある話では、介護している娘、つまり長女や次女が、お父さんと二人きりのときに、自分に有利な遺言を書かせてしまうことがあるようです。娘としては、「介護してきたのは私だから、他の兄弟よりも相続財産を多くもらう権利がる」という理屈です。裁判などで争われるのが、遺言を書いたとき、被相続人の意識ははっきりしていたのかどうか。被相続人の判断がつかない状況で、遺言を書かせたのではないか、と争いになることが少なくありません。 資産家一族よりも、財産が多少の預金と持ち家というような普通の家庭のほうが多いと聞きます。
お盆の時期に家族で相続を考える
遺言控除が出来きれば、これまで以上に遺言に対する関心は高まるでしょうが、遺言を過信してはいけません。基本は、被相続人と相続人でよく話し合うことです。それでも、相続の話になると、子どもから親に切り出すのは現実的に、なかなか気が進まないものです。話すキッカケが大事ですが、今年も来月はお盆の時期となります。こうした機会に、さりげなく、先祖の話から相続へと本題を切り出してはいかがでしょうか。
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Profile 宮口 貴志
税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。
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