税理士業界トピックス

税金・会計に関するニュースを分かりやすく解説します

2015.10.14

官邸力強まり党税調も屈服

安倍晋三首相が自民党税制調査会(自民税調)の野田毅会長を更迭―

このニュースが飛び込んできたのが10月中旬。野田氏は、消費税10%導入時に検討されている軽減税率導入問題で、一連の騒ぎの責任を取った形となりました。

皆さんもご存じのとおり、一連の騒ぎとは、財務省が作成した還付制度案。財務省は、内々に野田氏から、消費税10%引き上げ時に導入予定の軽減税率の代替案を作成するように指示されていました。財務省は、いったん10%の消費税を支払った上で、後で申請して2%分の還付を受ける還付金案を作成しました。多少の反対意見は予想されていたようですが、これが思った以上に反対が多く財務省案はナシに。安倍首相が動き、野田会長の更迭でこの騒ぎに終止符を打ちました。

一般の人からしたら「安倍さんは、自民党総裁・総理なのだから、必要に応じてそれくらいするのは当たり前」と思うでしょうが、かつての自民税調のインナーと呼ばれる幹部の力を知っている人からすると、「信じられないこと」と時代の流れを実感した事件でした。というのも、党税調のインナーはときの首相ですら簡単に手の出せない「聖域」でした。

かつての自民税調は「日本の税制の全てを決める機関」と言われ、小さいところでは各業界団体からの税制改正要望の取捨選択を一手に引受け、大きいところでは売上税導入、マル優(少額貯蓄非課税制度)廃止などをまとめるなど、多大な影響力を持っていました。
最もその権勢を振るったのが、税調会長や最高顧問を務めた山中貞則氏(故人)。山中氏は、当選17回の長老議員で党内最高の政策通といわれていました。豪快な人柄、税制面での政策通ぶりは有名です。山中氏の伝説事件の一つに、まだ若手議員のころ、当時首相の吉田茂氏(当時)に対して、会釈したが無視されたと「こら待て吉田、なんだその態度は」と、かみついたことが有名です。
この山中氏を中心に、インナーと呼ばれる税制に精通した村山達雄氏、奥野誠亮氏、林義郎氏、相澤英之氏の長老議員が実権を掌握し、党税調はその権勢を振るいました。

山中氏以降、税調会長には塩川正十郎氏、相澤英之氏、津島雄二氏など就任。私が知っている限り、津島会長のころには、14人の副会長を従えて会議を運営していましたが、記者の間では、かつての権勢は鳴りを潜めとささやかれていました。とはいっても、今回のような「会長更迭」ほど、その権勢は弱まっていなかったと思います。
かつて津島氏を何度か取材したことがありますが、「頭が切れる」「経済的・グローバルな視点で税制を考えている人」という印象が強く、議論でやり負かすにはかなり大変だなと感じました。豪快さはそれほど感じなかったものの、その税制理論には誰もが逆らえず、「税制は任せておけば間違いない」という安心感がありました。

自民税調のインナーの権勢を考えてみるに、そのポジションに何か特別な権限があったわけでなく、インナーひとり一人が、税制問題については党内で文句を言わせない、確固たる立ち位置を築き、財務省も従わせるような総合力をもっていた集団だったことが大きかったと思います。
最近のインナーは、旧大蔵官僚出身者、派閥の長などが目立ちます。意見調整が上手くできる人が好まれている印象です。野田氏の後任の自民税調会長には、宮沢洋一前経済産業相が充てられますが、宮沢氏も元大蔵官僚です(宮沢喜一元首相は伯父)。宮沢氏は、安倍首相と親しいとされ、首相の意向を踏まえて、自民、公明両党の税制協議が進むことでしょう。党税調の役割も時代とともに変化しているようです。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

公認会計士・税理士・経理・財務の転職は
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