税理士業界トピックス

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2016.05.10

パナマ文書で課税当局が注目する国外財産調書

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ、本部=ワシントン)が5月9日、いわゆる「パナマ文書」に記載された、タックスヘイブンに設立された約21万4000法人の情報を明らかにしました。
ソフトバンクのグループ会社や伊藤忠商事、丸紅などの名前が含まれており、マスコミも大々的に報道していますが、この情報だけを見てしまうと、何かとてつもなく悪いことをしているように思えてしまいます。企業によってタックスヘイブンを利用する理由が違うため、全てを“悪”と見てしまうのは如何なものかと思います。個人的には、企業の場合は中身を検証し、判断したいと考えています。政治家の場合は、適正納税を訴えているのだから別問題ですが・・・

タックスヘイブンについてここで議論はしませんが、課税当局はどうしているのか、その動きが気になります。ゴールデンウィーク前の4月26日には、衆院財務金融委員会で星野次彦国税庁次長が、パナマ文書に課税庁も関心を持っており、課税上問題があれば税務調査すると答弁しています。
課税当局はこの数年、国際税務に関する情報収集に力を入れており、パナマ文書に関心を持つのも当然です。しかし、分析にはかなりの時間がかかると思われます。

相続から財産状況をチェック

国税OB税理士の話では、相続がらみからリストをチェックしていくのが効果的とのことです。そこで威力を発揮するのが「国外財産調書」。国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る所得税や相続税の課税の適正化を図るため、国外に財産を保有する人からその国外財産の状況を申告してもらう制度を設けました。具体的には、その年の12 月31 日においてその価額の合計額が5千万円を超える国外財産を有する居住者は、翌年3月15 日までに当該財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、税務署長に提出しなければならないというものです。
つまり、国外に5千万円以上の財産を持っている人で、国外財産調書に記載されていなければ記載漏れを指摘できます。そして、すでに相続が発生していれば、課税漏れで追徴課税できることになります。

パナマ文書では、日本人の富裕層約400人程度の名前が確認できると言われます。
注目すべきは、警備大手セコムの創業者や親族情報。複数の法人がタックスヘイブンにつくられ、当時の取引価格で約700億円を超す大量のセコム株が管理されていたとマスコミ報道されています。セコムの創業者は、元取締役最高顧問の故戸田寿一氏と取締役最高顧問の飯田亮氏(83)。故戸田氏の場合は、2014年1月30日に逝去し、相続が発生していますから、相続人の財産チェックは抜かりないでしょう。

平成26年分の「国外財産調書」提出は8184件

他にも、パナマ文書からこうした相続案件が確認されるものと推察されます。
ちなみに、平成26 年分(平成26年12月31日分)の国外財産調書の提出状況は、全体で8184件、内東京国税局が5382件(65.8%)、大阪国税局が1054 件(12.9%)、名古屋国税局が632 件(7.7%)、その他国税局・事務所が1116 件(13.6%)となっています。この数については意見の分かれるところですが、総財産額は3兆1150億円に上ると報告されています。内訳は、有価証券が1兆6845億円(54.1%)、預貯金5401億円(17.3%)、建物2841億円(9.1%)と、上位3位までで全体の8割を占めます。

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Profile 宮口 貴志

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。フリーライター及び会計事務所業界ウオッチャーとして活動。株式会社レックスアドバイザーズ ディレクター。

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